Applied Financial Macroeconomics and Investment Strategy

Applied Financial Macroeconomics and Investment Strategy: A Practitioner’s Guide to Tactical Asset Allocation (Global Financial Market Series) by Robert T. McGee, Palgrave Macmillan 2015

5.0/5.0

アメリカ経済の変遷とそれに伴う資産価格の変動をビジネスサイクルと長期的トレンドの観点から分析した本。僕にとっては色々な示唆に富む、今年読んだ中でベストの本になった。断片的に得てきた知識が大きな枠組みの中で再編され今までにない意味を持つようになる、目からウロコが落ちる体験を何度も味わった。特に相場が大きな転換点に差し掛かっていると思われる今、歴史的な視野を持って世界を理解することは、投資家としてとても重要なことに思える。

どんな本も線を引きながら読んでいるのだが、いま振り返っていくつか線を引いたところを大雑把に要約してみる。

USの貿易赤字が減りGDPの3%を切ると、他国へのドル供給が縮小し、国際収支をファイナンスすることが困難となって金融危機に陥る国が出てくる。90年代のグローバルな金融危機を特徴付けたのはまさにこのダイナミクスであり、アメリカ経済は比較的好調だったが、ドル高環境のもと新興国は次々に問題に直面した。同じ理由により、リーマンショック後のビジネスサイクルにおいて中国や他の新興国はより大きな困難を抱え、USに対しては都合の良い力が働いている。(p.50)

(私注:トランプやらマッドエコノミスト・ナバロに聞かせてやりたいが、もちろん彼らは真実などに興味はない狂信者である)

中央銀行が利上げをしているか利下げをしているかで金融政策の度合いを判断するのは間違いだ。70年代、急上昇するインフレに対してFRBの利上げはゆっくりすぎた。当時の共通見解は、利上げ=引き締め政策だったが、本当に金融政策が引き締められていればインフレの上昇は続かない。名目金利は上がっても実質金利は下がり続け、借金して実物資産を買うインセンティブを与えた。別の例は、2008-9年の金融危機に続くヨーロッパの経験である。金利は非常に低くなり、2012-3年には誰もが金融政策は緩和的であると語っていた。デフレの世界では、低金利=緩和的政策とみなすことは間違いだ。銀行システムは収縮し、中央銀行のバランスシートは縮小し、マネーサプライは拡大をやめ、インフレがゼロに近づいていたが、ドイツ中銀はこの自明な事実を敢えて無視した。更に、2006-7年にFedは利上げをしたが、このときは「たったの」5.25%だし、ドル安で、コモディティの価格も上昇していたので、引き締め政策ではないと見なされていた。結果、イールドカーブは逆転し、6ヶ月以内にUSは景気後退局面に入った。(p.66-67)

実質GDP成長率は労働力と生産性の成長によって決まり安定しているので、名目成長率はインフレのトレンドに支配される。したがって、金利と名目GDP成長率には強い相関がある。Fedの目標通りインフレは今後平均2%と仮定すると、”ニューノーマル”時代の名目GDP成長率は、インフレ2%+実質成長率2.5%=4.5%あたりを平均として、4%から6%のレンジを行き来するだろう。一方、歴史的にマネーマーケットの実質金利は平均0.9%であることから、短期の名目金利はビジネスサイクルを通じた平均で3%を少し下回る値が想定される。同じく10年もの国債の平均実質利回りは1.8%なので、名目利回りは4%弱の平均となる。これらは、Fedが長期に渡りインフレ目標を達成できたとして、”ニューノーマル”がどのようなものになるかを示す。人口の高齢化により借り入れ需要が弱く既にレバレッジが経済全体に働いているため、実質利回りはしばらく平常を下回り続けると予想される。歴史的な平準から0.5%下回るとすれば、ビジネスサイクルを平均して、短期名目金利は2.5%、10年もの国債の名目利回りは3.5%程度となるだろう。70年代半ばから90年代半ばにかけての異常な高金利の結果、何がノーマルな金利かという認識に極端なサンプルバイアスが生じた。上述の数字はエコノミストのコンセンサスよりも低い。例えば、2012年12月にFOMC委員の大半が短期名目金利の長期平均を3.75%から4.5%と予測している。1980年代初期にインフレが長期の下降を始めて以降、金利の予測には一貫して上向きのバイアスが存在してきた。インフレの下降トレンドは過小評価され、結果金利は予想以上に下がることになった。このようにして実質金利が常に高過ぎたことが、インフレが長期に渡って下降して来た理由の一端である。現在の低インフレ環境下では、デフレとインフレのリスクは対称的なので、不自然に高かったこれまでの実質金利をもとにノーマルなレートを考えるのは間違いである。(pp.80-81)

一般に、利益率の減少と信用スプレッドの増大はビジネスサイクルの最終局面で起こり、景気後退のシグナルとなる。しかし1965年以降、構造的なシフトが両者に起きた。これは、同時に起こった金利上昇による利払いの急激な増加とレバレッジの増加に対応する。利払いを差し引く前の”total return”は、1965年以前以降を通じてずっと安定していることに注意しよう。利益率が減少したのは、利払い増加が原因であり、同じく利払い増加は、企業経営がよりハイレバになっていることを意味するから、信用スプレッドも拡大する。第二次大戦後の利益率の底値は、2001年にテックバブルが弾けた直後に起こった。このとき利益率は5%、信用スプレッドは3%であった。2007-9年の金融危機の際には、それぞれ10%、6%であったのと比較すると、テックバブルは信用バブルではなく、株式評価のバブルであったことが分かる。逆にリーマンショックは信用バブルであり、人々は大恐慌の再来という考えを受け入れて、信用スプレッドは大規模なデフォルトの発生を織り込んだ。しかし、企業は迅速にコスト削減や在庫処分を行い、また政府の果敢な対応により銀行システムへの信用が保たれて総需要が安定した結果、利益率はそれほど下がらなかった。明らかに、このときにこそ信用リスクを取る一生に一度のチャンスであった。(p.110-111ほか)

平均インフレ率が0%で頻繁にデフレが起こる第二次世界大戦以前の世界では、株価の上昇は期待できず、投資家を株に惹きつけたのは、高い配当利回りであった。このため、配当利回りが国債の利回りを上回った時、株は「買い」ということになっていた。一貫したインフレが続く第二次大戦後の世界では、利益のトレンドが名目GDPの増大にほぼ一致するなか、株価上昇によるリターンの方が遥かに大きくなった。このトレンドは、2001年のテックバブル崩壊まで続いた。また、配当金はインフレ調整を行うのがたやすいので、インフレリスクに対するプレミアムは国債の方が大きくなる。結果として、1950年代後半以降、配当利回りは国債の利回りより低く、重視されてこなかったが、低いインフレ率が続く”ニューノーマル”の世界では、第二次大戦前の関係が復活しつつある。(pp.135-136ほか)

2000年以降のリフレ状況においては、まず第一にインフレ率と名目GDP成長率の低下が世界的に起こっている。過去四半世紀にわたり、名目GDP成長率は4.9%を下回り、これは第二次大戦前のゼロインフレ時代に匹敵するものである。第二に、グローバルな貯蓄過剰が金融資産のリターンを押さえ込んでいる。2001-7年の前回の景気拡大期には、中国のように大きな貿易黒字を抱える国からの過剰貯蓄はリサイクルされ、米国・英国・アイルランド・スペイン・ギリシア・東欧諸国などの住宅ブームその他をまかなった。(p.149)

USで最初のベビーブーマーが55歳に達した2001年頃から労働参加率と共に労働分配率が急落している。この間、利益の成長率はGDPの成長率を遥かに上回っており、通常のビジネスサイクルのパターンでは説明しきれない。高齢化に伴い貯金や投資で生活を賄う人口の割合が増えたこと、また自動化技術の進展に伴って資本(機械)による人の置き換えが進行するにつれ、生産から得られる利益は、労働者から資本家、すなわち会社の株主や債券主により多く回されるという構造的なシフトが起こっている。(pp.161-162)

(私注:マルクスもびっくりの現象だ。階級闘争の止揚が、資本家の廃絶ではなく、労働者の資本家への転身によってなされようとしているのだから)

USから外国市場への投資の50%は直接投資や株式保有であるのに対し、外国からUSへの投資の70%は国債その他の債券、銀行預金などである。つまり、USは大量の安全資産を持ち、それを外国投資家に売る代わりに、自分は、よりハイリスク・ハイリターンの資産に投資をしている。結果、投資まで含めた国際収支は、20兆円以上の黒字になっている。(pp.214-215)

キリがないのでこの辺にしておく。しばらくしてからもう一度読んでみようと思う。